はじめに
トイレを掃除していて、
ふと気づいた「赤いもの」。
うんちに血がついているのを見た瞬間、
多くの飼い主さんは、胸がぎゅっとします。
何か大きな病気なのでは
今すぐ病院に行くべき?
それとも少し様子を見ても大丈夫?
血便は、
見た目のインパクトがとても強い症状です。
でも実は、
猫の血便には「緊急ではないもの」もあれば、
「早めに診てほしいもの」もあります。
この記事では、
血便を見たときに落ち着いて考えるための整理 をお伝えします。
1.血便=すべてが危険、ではありません
まず大切なことから。
血便が出たからといって、
必ず重い病気とは限りません。
猫では、
- 一時的な腸の炎症
- ストレス
- 食事の変化
などでも、
少量の血が混じることがあります。
猫の大腸粘膜は、
超音波検査でみると 厚さはおよそ2〜3mm程度 と非常に薄く、
ちょっとした炎症や便の刺激でも出血しやすい、
とても繊細な組織です¹。
特に、
- 元気がある
- 食欲もある
- 血はほんの少量
1〜2回で止まっている
こうした場合は、
急を要さないケース も少なくありません。
ただし、
ここで大切なのは
「血の量」よりも「猫の全体の様子」 です。
2.赤い血?黒い血?色で考え方が変わる
血便は、
血の色 である程度の判断材料になります。
鮮やかな赤い血
- うんちの表面に血がつく
- ポタっと血が落ちる
- 粘液と一緒に出る
こうした場合は、
大腸側の炎症(大腸炎) が疑われます。
ストレス性大腸炎や、
軽い腸内環境の乱れで起こることも多いタイプです。
猫では、
便がやや硬いだけでも大腸粘膜が刺激され、
便の最後に血だけが出てくる
といった所見がみられることもあります²。
黒っぽい血(タール状)
- うんち全体が黒い
- ベタっとした見た目
これは、
胃や小腸など上部消化管からの出血 を示唆します。
この場合は、
様子見はせず、早めの受診が必要 です。
3.よくある原因(頻度の高いものから)
猫の血便でよくみられる原因には、次のようなものがあります。
- ストレス性・一過性の大腸炎
- フード変更・食事内容の変化
- 寄生虫(特に子猫・保護猫)
- 細菌や原虫による腸炎
- 食物不耐性・食物アレルギー
- 慢性腸炎、腫瘍性疾患
多くは命に関わるものではありませんが、
繰り返す血便や、他の症状を伴う場合 は、
きちんと調べる必要があります。
4.好酸球性腸炎・好酸球性大腸炎という病態
猫の慢性的な血便や粘液便の原因として、
好酸球性消化管疾患(EGID) も鑑別に挙がります。
これは、
- 消化管の粘膜に好酸球が集まる
- アレルギーや免疫反応が関与すると考えられている
病態で、
小腸だけでなく 大腸に病変が出るケース(好酸球性大腸炎)
もあります³。
猫の慢性腸炎全体の中での正確な発生率は明確ではありませんが、
生検を行った慢性消化管疾患の猫のうち、
一定割合(数%〜1割前後)で好酸球優位の炎症が認められる
とする報告があります³⁴。
このタイプでは、
- 血便
- 粘液便
- 軟便と正常便を繰り返す
といった症状がみられることがあり、
見た目だけでは他の大腸炎と区別がつかない
ことも少なくありません。
下痢止めや吐き気止めだけを使用すると、
一時的に改善したように見える場合もあります。
確定診断と検査について
好酸球性腸炎・好酸球性大腸炎の確定診断には、
血液検査だけでは不十分で、
- 腹部超音波検査
- 消化管内視鏡検査による組織生検
- が必要になります。
腸の壁の厚みや構造、リンパ節の状態を画像で評価し、
さらに組織を採取して炎症細胞の種類を確認することで、
はじめて診断にたどり着く病態です。
また、頻度は高くありませんが、
- 消化管型リンパ腫
- その他の慢性腸疾患
といった病気が隠れている可能性もあります。
そのため、
症状だけで判断して治療を始めるのではなく、
できる限り確定診断をつけてから治療を開始することが、
結果的に猫にとっても、飼い主さんにとっても安心につながります。
5.すぐ受診を考えたいサイン
次のような場合は、
血の量が少なくても、早めの受診をおすすめします。
- 元気がない、ぐったりしている
- 食欲が落ちている
- 嘔吐や下痢を伴っている
- 黒っぽい血便
- 血便が数日続いている/以前から定期的にある
- 子猫・高齢猫
- 体重減少を伴う
血便は、
「体からのメッセージ」 です。
迷ったときは、
「様子を見すぎない」ほうが、
結果的に安心なことが多いです。
6.家でやっていいこと・やってはいけないこと
✔ 家でできること
- うんちの状態を写真に残す
- 回数・量・色をメモする
- 食欲や元気の変化を観察する
これだけで、
診察時にとても大きな情報になります。
❌ やってはいけないこと
- 人の下痢止めや市販薬を使う
- 自己判断で絶食させる
- フードを頻繁に変え続ける
特に、
「とりあえず何かしなきゃ」と
自己判断で薬を使うことは危険 です。
まとめ:血便は「判断材料のひとつ」
猫の血便は、
- すぐに命に関わるもの
- 少し様子を見られるもの
- その両方があります。
大切なのは、
血そのものより、
その猫が“どう過ごしているか”を見ること。
もし、
これで大丈夫か不安
受診のタイミングに迷う
そんなときは、
ひとりで抱え込まず、
かかりつけの動物病院に相談してください。
📚 参考文献(Evidence)
Penninck D, d’Anjou MA.
Atlas of Small Animal Ultrasonography.
Wiley-Blackwell, 2015.
― 猫の消化管壁構造と正常厚。Jergens AE.
Diseases of the colon in cats.
Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice. 2010.Washabau RJ et al.
ACVIM consensus statement on the diagnosis and management of chronic enteropathies in dogs and cats.
Journal of Veterinary Internal Medicine. 2010.Day MJ et al.
Histopathological standards for the diagnosis of gastrointestinal inflammation in endoscopic biopsy samples from the dog and cat.
Journal of Comparative Pathology. 2008.





