前回の記事では、
猫の歯肉口内炎に気づくサインについてお話しました。

  • 食べるのが遅くなる
  • 食べながら口を振る
  • よだれが増える
  • 口を気にするしぐさがある

このような変化が見られる場合、口の中で強い炎症が起きている可能性があります。

そして診察で歯肉口内炎と診断されたとき、
多くの飼い主さんがこう質問されます。

「やっぱり抜歯しかないんですか?」

重度の歯肉口内炎では抜歯が有効な治療になることが多いですが、
実際にはいくつかの治療の選択肢があります。

今回は、現在行われている主な治療について整理してみます。

抗生物質による治療

歯肉口内炎の猫では、口の中の細菌が炎症を悪化させていることがあります。

そのため抗生物質を使用すると、一時的に症状が改善することがあります。

しかし現在では歯肉口内炎は

細菌感染だけで起こる病気ではない

と考えられています。

猫の免疫反応が口の中の環境に過剰に反応し、
慢性的な炎症を引き起こしてしまう病気とされています。

そのため抗生物質だけで長期的に症状が落ち着くケースは多くありません。

また長期間の使用は耐性菌の問題もあるため、
補助的な治療として使用されることが一般的です。

ステロイド・免疫抑制剤

炎症を抑えるために

  • ステロイド(プレドニゾロンなど)
  • 免疫抑制剤(シクロスポリンなど)

を使用することがあります。

ステロイドは炎症を強く抑える薬なので、
投与すると食欲が回復する猫も少なくありません。

ただし

  • 長期使用による副作用
  • 減量すると再発する

といった問題もあります。

そのため

内科治療でどこまでコントロールできるかを見ながら、他の治療を検討する

という形になることが多いです。

サプリメントや補助療法

歯肉口内炎では、口腔環境や免疫反応に関係するサプリメントを使用することもあります。

例えば

口腔内環境を整える製品

免疫調整を目的としたサプリメント

口腔ジェル

などです。

これらは単独で強い炎症を治すものではありませんが、

炎症の悪化を防ぐ

再発を抑える

痛みを軽減する

といった目的で補助的に使用することがあります。

Mutoral(ミュートラル)

近年、歯肉口内炎の治療で注目されているものに
Mutoral(ミュートラル) があります。

これは免疫の働きを調整することを目的とした製剤で、
慢性的な炎症を抑える補助治療として使用されることがあります。

歯肉口内炎では、単なる細菌感染ではなく

免疫反応の過剰な炎症

が病態の中心と考えられています。

そのため、免疫反応を整えることで
炎症が落ち着くケースがあります。

当院でもMutoralを使用することがありますが、
症例によっては非常に効果を感じることがあります。

特に次のようなケースでは、治療の選択肢になることがあります。

抜歯後も尾側口内炎が残る症例

歯肉口内炎の治療では抜歯が有効な場合が多いですが、
それでも尾側口内炎(喉の奥の炎症)が残る猫もいます。

このような症例で炎症が落ち着くことがあります。

歯石が軽度で歯を残したい症例

歯肉口内炎と診断されても

歯石が少ない

歯の状態が比較的良い

歯磨きができそう

という猫もいます。

そのような場合

できれば歯を残してあげたい

と考える飼い主さんも多いと思います。

口腔ケアや内科治療と併用することで
炎症をコントロールできるケースもあります。

高齢で麻酔を避けたい場合

高齢猫や持病がある猫では
全身麻酔を慎重に考える必要があります。

そのような場合にも
炎症コントロールの選択肢として使用することがあります。

ただしMutoralは万能ではなく、

  • 強い歯石
  • 吸収病巣(歯が溶ける病気)
  • 重度の尾側口内炎

がある場合は、抜歯が必要になることも多いです。

この治療については、
また別の記事で詳しくご紹介したいと思います。

抜歯という治療

重度の歯肉口内炎では、
抜歯が最も効果的な治療になる場合があります。

歯の周囲には歯垢や細菌が存在し、
それが慢性的な炎症の刺激になっているためです。

研究では歯肉口内炎に対する抜歯治療で

60〜80%程度の症例で症状の改善

が報告されています。

当院のデータ

たんぽぽキャットクリニックでは、
2025年に歯肉口内炎で抜歯を行った猫が 42例 ありました。

その結果は

  • 寛解(薬が不要):88.1%
  • 投薬併用で安定:11.9%

すべての症例で炎症のコントロールが可能でした。

また、

平均体重は +0.22kg 増加しており、
多くの猫で食事状態の改善がみられました。

口の痛みが取れることで
しっかり食べられるようになる猫が多いのです。

治療の選択は猫ごとに違う

歯肉口内炎の治療は

  • 炎症の強さ
  • 年齢
  • 持病
  • 飼い主さんの希望

などを考えて決めていきます。

必ずしも最初から抜歯になるわけではありませんし、
内科治療で安定する猫もいます。

大切なのは、

その猫にとって一番痛みを減らせる方法を選ぶこと

です。

次回予告

歯肉口内炎の治療を考えるとき、
多くの飼い主さんが心配されるのが

「全身麻酔は大丈夫なの?」

という点です。

次回は、

抜歯は本当に怖いのか?

― 猫の全身麻酔について ―

をテーマに、麻酔のリスクや実際の症例についてお話しします。