はじめに

「抜歯しかないんですか?」

歯肉口内炎と診断されたとき、
多くの飼い主さんが最初に抱く疑問です。

「歯はできるだけ残したい」
「全部抜いてしまったらかわいそうなのでは…」

そう感じるのは、とても自然なことです。

確かに、重度の慢性歯肉口内炎(FCGS)では
抜歯が有効とされています。

しかし、

すべての猫が
すぐに抜歯を選択するわけではありません。

今回は、現在考えられている治療選択肢を
エビデンスも交えながら整理します。

1.抗生物質のみの治療

  • 歯石主体で歯肉炎が軽度
  • 一時的な炎症
  • 急性悪化期

では、抗生物質で一時的に改善することがあります。

しかし、

慢性歯肉口内炎(FCGS)は
単なる細菌感染ではありません。

現在は
免疫反応の異常が関与する慢性炎症性疾患
と考えられています(Sánchez-Vallejo 2018)。

そのため、

抗生物質単独での長期寛解は期待しにくい
とされています。

さらに、

  • 継続使用による耐性菌の出現
  • 将来的な抗菌薬の選択肢減少

という問題もあります。

漫然と抗生物質を続けることは推奨されません。

2.ステロイド・免疫抑制剤

慢性口内炎では、

  • プレドニゾロン
  • シクロスポリン

などの抗炎症・免疫抑制剤が使用されます。

ステロイドは

  • 強力な抗炎症作用
  • 鎮痛効果

を持ち、
劇的に症状が改善することもあります。

当院でも、

  • 体重維持
  • 食欲維持
  • 痛みのコントロール

を目的に内科管理を行う症例は少なくありません。

しかし、

  • 長期使用による副作用
  • 減量・中止での再燃
  • 根本治療ではない

という点は理解が必要です。

文献的にも、
内科単独治療での完全寛解率は高くないと報告されています(Jennings 2015)。

定期的な血液検査と歯科評価を行いながら
慎重に使用することが重要です。

3.サプリメント・補助療法

補助療法として当院で使用しているものをご紹介します。

インターベリー

免疫調整を目的としたサプリメント。
慢性炎症の再燃抑制を期待して使用します。

オーラティーン

抗菌性ジェル。
奥歯に軽く塗布するだけで使用可能。
軽度歯肉炎の補助として有効です。

デンタルバイオ

乳酸菌製剤。
口腔内フローラのバランス調整を目的とします。

これらは単独で重度炎症を治すものではありませんが、

  • 軽度〜中等度炎症のコントロール
  • 再燃予防

に役立つことがあります。

4.Mutoral(ミュートラル)

海外製の免疫調整製剤です。

免疫応答のバランスを整えることで
慢性炎症の改善が期待されます。

以下のような症例で選択肢となります:

  • 高齢で全身麻酔リスクが高い
  • 吸収病巣がない
  • 尾側口内炎主体
  • 猫エイズ関連口内炎

治療プロトコルは、

1日2回 × 2週間

その後1日1回 × 8週間

症例により継続維持することもあります。

ただし、
全例に有効なわけではありません。

5.抜歯という選択

慢性歯肉口内炎(FCGS)に対する抜歯は、

約60〜70%で明確な改善

20〜30%で部分改善

と報告されています(Jennings 2015)。

また、システマティックレビューでも
内科単独より有意に良好な成績とされています(Sánchez-Vallejo 2018)。

当院2025年データ(42例)

寛解(投薬不要):88.1%

維持(投薬併用):11.9%

全例で病態コントロール成功

平均体重:+0.22kg

約7割で体重増加

(2025年臨床報告データ)

文献報告(60〜80%改善)と比較しても、
当院成績は同等以上の水準にあります。

これは、

  • 適切な抜歯範囲の判断
  • 吸収病巣の見逃し防止
  • 周術期管理の徹底

が影響していると考えられます。

抜歯は「最後の手段」ではありません。

慢性炎症が続けば、

  • 慢性疼痛
  • 体重減少
  • QOL低下

が進行します。

痛みを取り除くための積極的治療の一つ
という位置づけです。

6.どうやって選ぶのか

治療選択は、

  • 炎症の重症度
  • 尾側口内炎の有無
  • 吸収病巣の有無
  • 年齢
  • 全身状態

によって決まります。

正解は一つではありません。

まとめ

歯肉口内炎の治療は、

  • 内科でコントロールできる場合もある
  • 抜歯が有効な場合もある
  • 併用が必要な場合もある

大切なのは、

今、その猫にとって何が最も痛みを減らせるか。

次回は、

抜歯は本当に怖いのか?

― 麻酔リスクとその管理 ―

ここをエビデンスベースで解説します。