ここまでのシリーズでは、
についてお話してきました。
歯肉口内炎の治療では、
重度の場合に 抜歯 が有効なことがあります。
しかし診察でこの話をすると、多くの飼い主さんがこうおっしゃいます。
「全身麻酔が心配です。」
これはとても自然な不安だと思います。
今回は、猫の全身麻酔のリスクについて
できるだけ客観的にお話したいと思います。
猫の全身麻酔のリスクはどれくらい?
猫の全身麻酔の安全性については、
大規模な研究が行われています。
英国で行われた10万件以上の麻酔データの解析では、
猫の麻酔関連死亡率は
- 健康な猫:0.11%
- 持病のある猫:0.24%
と報告されています
(Brodbelt et al., 2008)。
これは
約400〜900例に1例
という頻度です。
もちろんゼロではありませんが、
現在の獣医療では麻酔の安全性は大きく向上しています。
- 麻酔リスクが高くなるケース
- 麻酔のリスクは、猫の状態によって変わります。
例えば
- 重度の心臓病
- 腎不全
- 脱水
- 貧血
- 極端な体重減少
などがある場合、
麻酔リスクは高くなる可能性があります。
そのため手術前には
- 血液検査
- 必要に応じた心臓検査
などを行い、
猫の全身状態を評価します。
口の病気と腎臓病の関係
猫では、歯科疾患と慢性腎臓病の関連が指摘されています。
歯周病のある猫では、
慢性腎臓病(CKD)を発症するリスクが高く、
歯周病が重度になるほどそのリスクが上昇することが報告されています
(Trevejo et al., 2018)。
また高齢猫では、
中等度以上の歯科疾患が慢性腎臓病のリスク因子になる
と報告した研究もあります
(Finch et al., 2016)。
歯周病は単なる口の問題ではなく、
慢性的な炎症が全身に影響する可能性があると考えられています。
【症例】慢性腎臓病の猫
実際の症例をご紹介します。
ある高齢の猫は、
慢性腎臓病があり体重が少しずつ減っていました。
さらに歯肉口内炎があり、
口の痛みのため食事量が落ちていました。
このような場合、
麻酔には慎重な判断が必要です。
しかしこのまま口内炎を放置すると、
- 食べられない
- 体重がさらに減る
- 全身状態が悪化する
可能性もありました。
そこで
- 術前検査
- 点滴管理
- 麻酔時間の短縮
などを行い歯科処置を行いました。
その結果、
- 食欲の改善
- 体重の回復
- 口の痛みの消失
が見られました。
もちろんすべての症例が同じ結果になるわけではありませんが、
口の痛みが取れることで生活の質が大きく改善する猫もいます。
治療しないリスクもある
麻酔のリスクを心配されるのは当然です。
しかし歯肉口内炎では、
治療しないリスク
もあります。
例えば
- 慢性的な痛み
- 食欲低下
- 体重減少
- 全身状態の悪化
などです。
つまり
麻酔のリスクだけではなく、
治療しない場合のリスクも一緒に考えることが大切
になります。
麻酔は「運」ではなく「管理する医療」
現在の獣医療では、
麻酔は
運任せのものではなく、
状態を評価し管理する医療
になっています。
もちろんゼロリスクではありませんが、
適切な準備と管理によって安全性を高めることができます。
次回
次回は、多くの飼い主さんが気になる
「歯を抜いたら猫は食べられるの?」
という疑問についてお話します。
猫の食べ方は人とは少し違うため、
歯がなくても生活できる理由があります。
参考文献
Brodbelt DC et al.
The risk of death: the confidential enquiry into perioperative small animal fatalities.
Veterinary Anaesthesia and Analgesia. 2008.
Trevejo RT et al.
Association between periodontal disease and chronic kidney disease in cats.
Journal of the American Veterinary Medical Association. 2018.
Finch NC et al.
Risk factors for development of chronic kidney disease in geriatric cats.
Journal of Veterinary Internal Medicine. 2016.






