はじめに
「最近、なんだかご飯の食べ方が変わったな」
「ちょっと口が臭うような…?」
そんな“なんとなくの変化”が、実は口腔トラブルのサインかもしれません。
猫は本来、口の中を触られるのが苦手な動物です。
それゆえ、飼い主さんが異変に気づきにくく、気づいたときにはすでに歯がグラグラしていたり、ひどい歯肉炎になっているケースも珍しくありません。
特に、10歳を超えるシニア猫では、約9割が何らかの歯周病を抱えているという報告もあります(1)。
シニア期には「年だから」と済ませてしまいがちな不調こそ、見逃さずに向き合うことが大切です。
今回は、そんな「シニア猫の口腔ケア」にフォーカスして、見逃しやすいサインや実際の症例、家庭でできるケアのポイントを解説します。
目次
・シニア猫に多いお口のトラブル
・気づきやすい変化・見落としがちなサイン
・3つの症例から見える口内トラブルの現実
・猫にできる口腔ケアって?
・まとめ:お口を整えると、暮らしが変わる
シニア猫に多いお口のトラブル
猫の歯周病は、3歳以上の猫の約8割が抱えているといわれるほどポピュラーな病気です(2)。
とくに10歳以上の猫では、進行した歯肉炎や歯のぐらつき、口内炎などがしばしば見られます。
代表的な症状には、以下のようなものがあります:
- 歯ぐきが赤い(歯肉炎)
- 歯がグラグラしている、抜けそう(歯周病)
- 口の中全体がただれている(口内炎)
- よだれが増える、口臭が強くなる
- 下顎の周りに黒い汚れがついている
- 片側だけでごはんを食べる
- 食欲はあるのに、食べ始めてやめてしまう
猫は痛みや不快感を表に出しづらい動物です。
だからこそ、こうした“ささいな異変”を見逃さないことが大切です。

気づきやすい変化・見落としがちなサイン
猫の口腔トラブルは、「食べ方」「におい」「仕草」にヒントがあります。
🐾 食事に関するサイン
- ごはんを食べたがるのに途中でやめる
- ドライフードを嫌がり、ウェットばかり食べる
- ごはんを片側の歯だけで噛んでいる
- よく食べているのに体重が減っている
🐾 においに関するサイン
- 口が近づくと臭いがする(※健康な口腔内はフードの匂いや無臭)
- よだれが増えてアゴの被毛が汚れる
- 顔をなでようとすると嫌がるようになった
🐾 仕草や行動に関するサイン
- 口をくちゃくちゃ動かす、何かを吐き出そうとする仕草
- 食後に口を気にして手でこする
- 頭を振る、歯ぎしりをする
- 口の周りが濡れてただれている
「なんとなく最近、食べ方が変わった」
そんな気づきが、猫ちゃんの健康を守る第一歩になります。
3つの症例から見える口内トラブルの現実
症例①:診察室で「ぽろっ」と抜けた歯
口を気にしているということで来院された猫さん。
左上顎の歯が抜けかかって内側に曲がっており、ピンセットで摘んだところぽろっと取れました。
出血もなく、その後はスッキリとした様子でした。
実は、歯周病が進行すると自然に歯が抜け落ちてしまうことがあります。
ただし、そこに至るまでの間、猫はずっと違和感を感じていたはず。
食事量の減少や、ドライからウェットへの嗜好の変化などが表れていた可能性もあります。
症例②:腎臓病と口臭、そして麻酔下の処置
「口臭が強くなってきた」と来院された猫さん。
腎臓の数値がやや高く、腎臓病食を食べていたそうですが、重度の歯周病が判明しました。
飼い主さんと相談のうえ、全身麻酔で全臼歯抜歯を実施。
術後すぐにごはんを食べ始め、体重も回復、口臭もなくなりました。
口周りのよだれでただれていた皮膚もきれいになり、表情が明るくなった印象です。
症例③:性格まで変わったエイズ陽性の猫
慢性的な歯肉炎があったエイズ陽性の猫さん。
歯磨きで出血してしまい、家庭でのケアが難しいとのことでした。
麻酔下で炎症の強い歯を抜歯したところ、痛みがなくなったのか性格まで穏やかに。
以前より甘えるようになり、飼い主さんも驚いていました。
“痛みが性格に影響を与える”ということを実感した症例でした。
猫にできる口腔ケアって?
猫のケアは「歯みがきしなきゃ!」と意気込まず、“できることを少しずつ”が基本です。
🐾 ガーゼでやさしく慣らす
最初から歯ブラシはハードルが高いもの。
まずは指にガーゼを巻いて、歯や歯茎をやさしく拭くだけでもOK。
触れられる場所から、少しずつ範囲を広げていきましょう。
🐾 サプリやケア用品を活用
歯みがきジェル
デンタル成分入りおやつ・フード
水に混ぜるマウスリンス
善玉菌サプリ(歯肉炎・歯石抑制目的)
「触れない猫」でもケアできるアイテムが増えています。
無理なく取り入れてみましょう。
🐾 健診時の口腔チェック
定期健診のときに口の中もチェックしてもらうことで、早期発見につながります。
とくに10歳を超えたら、半年に1回くらいのペースで診てもらうのがおすすめです。
まとめ:お口を整えると、暮らしが変わる
猫の口腔ケアは、「面倒そう」「難しそう」と思われがちですが、
実は小さな気づきと少しの工夫で、大きく暮らしが変わることもあります。
- 痛みのない快適な食事
- 表情の変化
- 性格の穏やかさ
- 生活の質(QOL)の向上
そして何より、「食事は飼い主さんとのコミュニケーションの時間」です。
ごはんを与えるだけでなく、
おしゃべりしながら、しっかり観察しながら、そばにいてあげる時間も、猫にとっては大切な愛情です。
とくに15歳以上の“ハイシニア猫”では、歯の問題が生活全体に影響します。
年齢的に麻酔処置が難しくなる前に、早めのチェックと対応を心がけましょう。
「歯が抜けるまで、我慢していたんだね」
そんな切ない気づきが、1日でも早く訪れますように。
今日からできるケア、はじめてみませんか?
出典・参考文献
(1) Lommer MJ. Periodontal disease in geriatric cats. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2005;35(3):749–761.
(2) Harvey CE. Dental disease in cats. In: August JR, ed. Consultations in Feline Internal Medicine. 1997;2:41–48.






