【飼い主さまに聞く猫の難病「FIP」】シリーズでは、たんぽぽキャットクリニックでFIPを治療した猫ちゃんの飼い主さまに、発症から寛解までのご経験を語っていただきます。

今回は、生後約3か月でウェットタイプのFIPを罹患して半年ほどで寛解した「そらちゃん」の飼い主さまである勝田さんご夫婦にお話を聞きました。

プロフィール

勝田さんご夫婦…パパ・智康さん、ママ・歩さん。もともと猫ちゃんを1匹飼っており「一緒に楽しく暮らせる猫のお友だちを作ってあげたい」との考えでそらちゃんをお迎えした。ご夫婦ともに猫が大好き。

そらちゃん…クリニックに併設された譲渡施設「たんぽぽの里」出身。取材時にはFIPが寛解し元気に暮らしていたが、病院が苦手であるため取材当日はおうちで待機していた。

◆運命の出会い!なのにご飯を食べてくれず…

仔猫時代のそらちゃん(中央)と兄弟たち。この時も少し体調を崩していた。
2023年10月、生後約3か月だった「そらちゃん」をお迎えされたそうですね。

歩さん:はい。近隣の保護猫譲渡施設を見て回っていたところ、たんぽぽの里から紹介されたのがそらちゃんでした。長毛の猫ちゃんが特に大好きな私たちは、写真を見ただけで一目惚れ。実際に会ってみて「すぐにでも引き取りたい」と申し出ましたが、当時のそらちゃんは体調を崩していて食事もあまり取れなかったため、施設内で治療を受けて元気になるまでしばらく待つことになりました。

それから2週間経ってもまだくしゃみや鼻水、涙目など風邪の症状があったのですが、他の猫と離れて静養することで健康状態も良くなるだろうと思い、まだ体調が万全ではないことを了承した上で我が家に来てもらいました。

お迎えしたときの様子はいかがでしたか。

初日からよく食べてよく遊んでいましたし、仰向けになって寝るなどリラックスして過ごしていたのを覚えています。

しかし、数日経つとご飯を食べなくなってしまって…手からフードを与えると少しずつ食べましたが、食欲がないのがとても心配でした。数日すると体重が落ちてきてしまったので、先住の猫ちゃんがお世話になっているかかりつけの動物病院にそらちゃんを連れて行きました。

その時点では、どのような診断を受けたのでしょうか。

「風邪でしょう」ということで、風邪薬を与えながら様子を見ることになりました。しかし、症状が改善せず、食べる量がずっと少ないのが気になって、もう一度同じ動物病院を受診しました。

再診でも診断は変わりませんでしたが、獣医師さんはお腹が少し膨らんでいるのを気にしている様子で、ステロイドを投与されました。

すると帰宅した時からそらちゃんの調子がよくなり、急にご飯を食べ始めました。その時は「ついに風邪が治ったのかな」と安心しましたが、翌日の午後になるとあまり動こうとせず目つきもぼんやりとして、食欲もない状態に戻ってしまいました。

お迎えしたばかりの仔猫に元気がないというのは、不安だったと思います。

そうですね。私は保護猫活動に関するネット上の情報発信をよく見ていたので、仔猫がかかりやすいFIPという病気があり、治療が難しいので罹患すると亡くなってしまう子も多いということは知っていました。なので、この時「そらちゃんもFIPなのかもしれない」という考えが頭の片隅に浮かんでいました。

そして、お迎えしてから2週間ほどたった頃、FIPの症例数が多いたんぽぽキャットクリニックを受診しました。

◆診断は「FIPウェットタイプ」。ショックと安心が入り混じる

たんぽぽキャットクリニックでの診察はいかがでしたか。

「長期間にわたって風邪の症状がある」「体温が39.6℃ある」「食事の食いつきが悪い」「痩せているのに、お腹がやや膨らんでいる」「別の動物病院でステロイドを投与されたら調子がよくなった」と先生に伝えると、すぐにFIPの検査をすることに。結果は陽性で、ウェットタイプのFIPと診断されました。そして、その場で入院して治療を始めることになりました。

そのときは「もしかしてと思ってはいたけれど、うちの子が命に関わる病気なんて…」と、とても悲しい気持ちになりました。今も思い出すだけでも涙が出てしまいます。

一方で、そらちゃんの体調不良の原因が分かって、FIPの治療経験が豊富な動物病院に預けられることにホッとする気持ちもありました。

※FIPの2つのタイプのうち、お腹に「腹水」と呼ばれる水が溜まることが特徴。FIPのタイプについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。

入院中の治療はどのように進められたのか、飼い主さまの目線で教えてください。

毎日注射でお薬を与えて治療を進めると聞きました。入院中は一度も会えなかったので心配でしたが、スタッフさんが写真や動画を送ってくれて、そらちゃんがどんどん元気になるのが分かりました。

一番変化を感じたのが「目」です。私たちの家にいたときは瞬膜が出ていて目がとろんとしていたのですが、入院してから徐々に目つきがしっかりしてきました。また、腹水で膨らんでいたお腹も少しずつ平らになりました。

そして入院してから約1か月後、そらちゃんが自分でご飯を食べられるようになったタイミングで、自宅での治療に切り替えるため退院になりました。

※目の目頭に出てくる白い膜のこと。第三眼瞼。普段はまぶたの下にあってあまり見えないが、体調を崩すと赤く変色したり、出たままになってしまうこともある。

退院した時のそらちゃんの様子はどうでしたか。

お迎えに行くと診察台の上で緊張して縮こまっていたので、「本当に連れて帰って大丈夫かな?」というのが正直な気持ちでした。

一方で、自分でご飯が食べられるようになったので、体つきはしっかりしていました。実際、入院時には900gしかなかった体重が、退院時は1.3kgになっていました。

◆自宅での治療を開始。1日1回のお薬の時間に集中

ご自宅でのそらちゃんの様子や、治療について教えてください。

家に着いてしばらくすると気持ちが落ち着いたのか体調が少し良くなり、少しずつ自分でご飯を食べてくれました。また、おもちゃでよく遊んだり、ベッドに飛び乗ったりして活発に動いていました。

お薬をあげる際に気をつけたことや、苦労したことは?

まず、気を遣ったのは「毎日決まった時間に薬を飲ませること」です。そらちゃんが退院したばかりの時は、入院中と同様に16時にお薬をあげなくてはならなかったため、仕事を休んだり早く切り上げたりしていました。その後、タイミングを1時間ずつ後ろにずらしていって、最終的には19時にしました。

お薬をあげるタイミングは空腹時が望ましいため、いつも1時間前からご飯をあげないようにして、時間になったら口を開けて飲ませました。そのとき大変なのが、ちゃんとお薬を飲んでくれたか確認する作業です。

そらちゃんがお薬を嫌がって暴れることもあるのですが、そうすると飲み込んだのか、吐き出してどこかへ飛ばしてしまったのかが分からなくなってしまいます。なので、お薬をあげる前はそらちゃんの周りをきれいに片づけて、飲ませた後も吐き出した薬が落ちていないか周りをよく見て回るようにしていました。

何回目かの診察で「お薬と液状のおやつを一緒に与えてもいい」とアドバイスをいただいたので、以降はCIAOちゅ〜るの中にお薬を混ぜたものをあげるようにしました。すると、おやつと一緒なのでそらちゃんが喜んで食べてくれますし、嫌がって薬を吐き出す心配もないので、とても楽になりました。

◆早めの受診&経験豊富な動物病院選びがカギだった

服薬が終わってからの経過を教えてください。

実は、服薬が終わってからの2週間も、気が抜けませんでした。というのも、その期間に少しずつ薬の効果が薄れていくので、ストレスがかかると再発の恐れがあると聞いていたからです。そらちゃんが安心して過ごせるよう、来客は一切断りました。

また、薬が終わってからも3か月間は再発のおそれがあるため、たんぽぽキャットクリニックを定期的に受診していました。最初は2週間に1回で、徐々に頻度を落として最終的には1か月に1回になりました。そして、3か月間異常が認められなかったため、4月の末に治療が完了しました。

診断されてから寛解まで、全部で約6か月かかったのですね。

はい。診断された直後は不安が強くて「これから長い戦いが始まるんだ」と感じていましたが、入院して投薬治療が始まり、だんだん元気になっていくそらちゃんを見ていると希望が持てるようになり、振り返るとあっという間に過ぎたように思います。

たんぽぽキャットクリニックで受けた治療を振り返ってみて、感想はいかがですか。

獣医師さんの判断がいつも的確で、入院中のケアも手厚かったです。また、そらちゃんをたんぽぽの里からお迎えしたからこそ「たんぽぽキャットクリニックを受診しよう」という考えも浮かんだので、ここで出会えて本当に良かったと思っています。

最後に「うちの子もFIPかも?」と悩んでいる方や、FIPの治療に取り組んでいる方にメッセージをお願いします。

そらちゃんと同じように仔猫が長期間風邪をひいていて症状が改善しない、もしくは悪化しているときは、FIPの可能性があるかもしれません。とはいえFIPは様々な症状があるそうなので、もしかしたら…と思ったらなるべく早くFIPに詳しい獣医師さんに診せるのが一番だと思います。

また、「専門的な知識と経験がないとFIPの迅速な診断や治療は難しいのかもしれない」とも感じました。ですから、FIPに詳しい獣医師がいる動物病院にセカンドオピニオンを求めることも積極的に検討してみてはいかがでしょうか。

ありがとうございました。