かつてFIP(猫伝染性腹膜炎)は、発症すると数週間で命を落とす「不治の病」と言われてきました。
しかし、近年では抗ウイルス薬の登場により、多くの猫が回復できるようになっています。
「治らない病気」から「治療できる病気」へ、そして今は「より良く治す病気」へと進化しています。

今回は、2024〜2025年に発表された最新の研究を紹介しつつ、FIPについて理解を深めていただけたらと思います。

84日から42日へ?治療期間を短縮する研究が登場

これまでFIPの治療は、12週間(84日間) の投薬が基本とされてきました。
これは、最初に有効性が報告されたGS-441524(抗ウイルス薬)の臨床試験で設定された期間に基づいています。

しかし、2025年に発表された研究では、42日間(6週間)の投薬でも同等の効果が得られたという報告があり、注目を集めています。
対象となった猫は腹水型のFIPで、短期投与群・長期投与群ともに高い寛解率を示しました。
(Short Treatment of 42 Days with Oral GS-441524 Results…, 2025)

この報告により、「状態によってはより短い治療で十分に回復できる可能性がある」 という新たな選択肢が見えてきました。

当院でも2025年から42日間での治療を行っており、近日、データを公表する予定です。
症例を重ねながら、より安全で確実な治療期間を検証しています。

経口レムデシビルという新しい選択肢

これまでFIPの治療薬として用いられてきたのは主に3種類でした。

  • GS-441524(注射 or 経口)
  • モルヌピラビル(経口)
  • レムデシビル(注射)

これらはいずれも抗ウイルス薬で、体内で似た仕組みでウイルス増殖を抑えます。
ただし、投与経路や代謝過程が異なるため、症状のタイプや猫の状態に合わせて使い分けが必要でした。

そして2025年、「経口レムデシビル(飲み薬)」 による治療効果を検証した報告が登場しました。
(Efficacy of Oral Remdesivir in Treating Feline Infectious Peritonitis, 2025)

従来は注射薬としてしか使用できなかったレムデシビルを、
経口剤として投与したところ、22頭のうち約75%が寛解したという結果が得られています。
副作用の報告も少なく、投与管理の簡便さから注目を集めています。

一方で、この経口レムデシビルはまだ日本国内では販売されていません。
そのため、現時点では海外での研究段階にとどまります。
当院でも導入はしておらず、引き続きGS製剤やモルヌピラビルを中心に治療を行っています。

それでも、経口レムデシビルの登場は、
「在宅管理しやすい治療法」への大きな一歩であり、
将来的に国内承認されれば、FIP治療のハードルを大きく下げる可能性があります。

🧬 炎症マーカー研究の進展と、治療の“標準化”へ

2025年には、FIP猫の炎症マーカー(AGPやSAAなど)を追跡した複数の研究が発表されました。
これらは、治療経過や再発リスクを予測する手がかりとして注目されています。
(Evaluation of Selected Inflammatory Markers in Cats with FIP, 2025 ほか)

たとえば、治療開始後にSAAやAGPが急速に低下する猫は回復が早く、
逆に高値が続く場合は再発リスクがあるといった傾向が示唆されています。

当院でも、これらの炎症マーカーを用いたモニタリングを日常的に行っており、
FIPの治療経過を客観的に評価するための重要な指標として活用しています。

このような研究の積み重ねにより、
「FIP治療のゴールデンスタンダード(標準的治療指針)」が徐々に確立されつつあります。
治療薬・期間・モニタリング項目が体系化されることで、
より多くの猫が安全に、確実に回復へ向かうことが期待されます。

🐱 まとめ:FIP治療は“より良く治す”時代へ

ここ1〜2年の研究で、FIP治療はさらに進化しています。
治療薬の選択肢が増え、治療期間も短縮されつつあり、
炎症マーカーによるモニタリングも広がっています。

FIPはもはや“特別な病気”ではありません。
そして、治療の質を高めるための研究は今も続いています。

私たちたんぽぽキャットクリニックでも、
一匹一匹の状態に合わせた最適な治療とモニタリングを行いながら、
新しい知見を臨床に生かしていきます。

📚 参考文献(抜粋)

Short Treatment of 42 Days with Oral GS-441524 (2025)
Efficacy of Oral Remdesivir in Treating FIP (2025)
Evaluation of Selected Inflammatory Markers in Cats with FIP (2025)

ご相談ください

FIPに関してわからないこと、ご不安な点がありましたら、
どうぞお気軽に当院へご相談ください。
一緒に、最適な治療方法を考えていきましょう。