かつて「不治の病」として恐れられた猫の病気「FIP(伝染性猫腹膜炎)」の治療法などについて獣医師にインタビューする連載記事。

第2弾となる今回は、FIPの診断方法やその課題について聞きます。

たんぽぽキャットクリニック 椿直哉院長

2004年に獣医師免許を取得、北里大学を卒業。個人動物病院での勤務を経験した後、2次診療動物病院、企業動物病院を経て、2021年よりたんぽぽキャットクリニック(旧たんぽぽあだぷしょんぱぁく動物病院)院長を務める。数多くのFIP治療実績を持つ。

「様子見」で治療のタイミングを逃すことも

動物病院でFIPを診断する方法について教えてください。

当院(たんぽぽキャットクリニック)では非常に多くの症例を経験しているので、例えば「生後6か月前後」「1か月前に避妊手術を受けた」「微熱がある」というような条件がそろうとFIPを疑い、検査を検討します。

一般的な動物病院であれば、発熱や下痢などの症状から風邪を疑い、対症療法を中心に行いながら、数日間様子を見ることが多いと思います。それでも「あまり改善が見られない」「元気なときの5〜6割程度の回復率」「ご飯が進まない」というような場合には、やはり検査を行うのがよいと思います。それでもさらに様子見を続けてしまうと、治療によって回復させられるタイミングを逃してしまいかねません。

基本的に「診断は慎重であるべき」ですが、タイミングの見極めは大切です。ちなみに当院の場合、対症療法で様子を見る期間は「最長でも1週間」としています。

診断する際、決め手となるものは?

FIPには「ウェット」と「ドライ」という2つのタイプがあります。

ウェットタイプのFIPの場合は、腹水を検査に出すことで確定診断ができます。PCR検査によってFIPウイルスの陽性という結果が出たら確定ですので、比較的診断がしやすいといえます。

一方、ドライタイプのFIPは診断がとても難しいです。ドライタイプの場合も血液を検査に出すことはできるのですが、検出率がとても低いため、「検査結果が陰性なのに、FIPだった」ということが、少なくありません。もちろん費用もそれなりにかかりますから、私としては「検査をやる意味があるのだろうか…」と思ってしまいます。

そのため、ドライタイプのFIPについては、下記のような状況証拠を積み重ねて、総合的に判断します。

◉発熱

◉貧血

◉食欲不振

◉グロブリン(タンパク質の一種)の上昇

◉血清アミロイドA(SAA)の上昇

◉肝酵素の上昇

◉黄疸の数値(ビリルビン)の上昇

◉リンパ節や腎臓の腫れ(腹部超音波検査)

◉ふらつき

表れる症状は、これらのうち一つのこともあるし、すべてが当てはまることもあります。一般的に「グロブリン」と「血清アミロイド」、「リンパ節や腎臓の腫れ」がそろって当てはまれば、高確率でFIPであるといえます。

しかし、それ以外のものがいくつか該当する場合は、治療に進むべきか、さらに他の病気の可能性を除外する検査を行うのか、すごく難しいところです。その場合は、さらにストレスファクター(ストレスがかかるようなことがあったかどうか)の有無を考慮して、総合的に判断します。

なお、対症療法による様子見の期間にステロイドを使ってしまうと、食欲が改善したり、熱が下がるなど、症状が一時的に改善してしまうため、判断がより一層難しくなります。

また、病状が進行した場合に表れる症状としては下記のようなものが挙げられます。

◉重度の貧血

◉食欲廃絶(ご飯をまったく食べない)

◉神経症状(ふらつき、てんかん発作等)

3つ目の神経症状(ふらつき、てんかん発作等)は不可逆的な(元に戻すことのできない)症状であり、後遺症として発作が残ったり、再発しやすくなったりします。これらが出る前にFIPの治療を開始することが大事です。

FIPと確定した後の治療は?

FIPと診断された後、動物病院ではどのようなケアが行われますか?

FIPを端的に説明すると「コロナウイルスに感染することで、免疫細胞が混乱させられて、自分の細胞を攻撃するなどしてしまう病気」です。

その結果、脳で炎症が起きれば神経症状が出るし、肝臓で起きれば黄疸が出るし、お腹のリンパ節で炎症が起きれば腹水が溜まる…というような症状が生じるわけです。

そのため治療法としては、「(ステロイドによって)暴れている免疫反応を抑え込む」か「ウイルス自体を減らす」か、その2つのうちのいずれかを選ぶことになります。

従来は前者の治療法しかありませんでしたが、コロナウイルスの特効薬が開発されたことで、「ウイルス自体を減らす」という、非常に有効な治療ができるようになりました。

ただ実は、その特効薬についてはいろいろな課題があるのです。それについては、また次回、ご紹介します。