猫の飼い主さんにとって「FIP(猫伝染性腹膜炎)」という言葉は、とても重い響きを持っていると思います。
これまで長い間、FIPは「診断がついたら助からない病気」とされ、獣医師の立場からも打つ手がない時代が続きました。
しかし、ここ数年で状況は大きく変わっています。
新しい抗ウイルス薬(GS-441524、レムデシビル、モルヌピラビルなど)の登場によって、世界中で治療成績が報告されるようになり、かつて不治の病とされたFIPに“希望の道”が開かれてきたのです。
🌍 海外での治療成績
いくつか代表的な研究をご紹介します。
307例のFIP治療成績(2020〜2022年)
オーストラリア・イギリスを中心に、レムデシビルやGS-441524を使った大規模調査が行われました。
その結果、全体で84.4%が生存。タイプ別ではWet型49.5%、Dry型11.4%、神経型14.3%、眼型7.5%と分類されています。
寛解率は86%、死亡率は14%。かつての「致死率100%」から見れば、これは大きな進歩といえます。
引用:Taylor SSら, J Feline Med Surg. 2023
モルヌピラビル治療(54例)
オーストラリアで行われた臨床報告では、GS治療で改善しなかった症例にもモルヌピラビルが効果を示しました。
まだ研究段階ではありますが、新たな選択肢として注目されています。
引用:Clark TMら, Aust Vet J. 2025
42日間 vs 84日間の治療比較
従来「84日間」が標準とされていたGS経口製剤の投薬を、42日間で終了したグループと比較した研究があります。
その結果、42日間でも84日間と同等の寛解率を達成。今後、治療の期間短縮が可能になるかもしれません。
引用:Zuzzi-Krebitz AMら, Viruses. 2024
このように、世界中でFIPの治療法が研究され、成果が報告されています。
🏥 当院の治療実績
たんぽぽキャットクリニックでも、2022年から本格的にFIPの治療に取り組んできました。
2025年5月までに、当院でFIPと診断・治療を行った症例は170例に上ります。
内訳は以下のとおりです。
- Wet型:19.0%
- Dry型:52.9%
- 神経型:15.5%
- 眼型:3.5%
- 混合型:12.6%
そしてそのうち、寛解率は87.1%。
海外の成績と比べても遜色なく、全国的に見ても高い水準を維持できています。
もちろん、すべての症例を救えたわけではありません。
重度の貧血や、重積発作などがすでに起きてしまったケースでは、治療の甲斐なく命を落とした猫たちもいます。
だからこそ私たちは、「少しでも早く異常に気づき、早期に治療を開始すること」を強くお伝えしたいのです。
💡 飼い主さんへ
FIPは、もはや「絶望の病」ではありません。
世界的な研究成果と、国内での治療経験の積み重ねにより、8〜9割の猫が寛解して元気に暮らせる時代になってきました。
当院でも実際に、多くの猫たちが治療を終えて新しい家族のもとで元気に過ごしています。
「もしかしておかしいな?」と感じたら、諦める前にどうかご相談ください。
FIPは、早期発見と早期治療がカギを握ります。





