🐾 はじめに

猫の慢性腎臓病(CKD)は、完全に治すことが難しい病気です。
そのため治療の目的は「病気を治す」ことではなく、進行をできるだけ遅らせ、快適に暮らす時間を増やすことにあります。

第1回では「慢性腎臓病の概論」第2回では「検査と診断」について解説しました。
今回は第3回として、猫の腎臓病の管理と治療について具体的にお伝えします。

🐾 1.治療の基本方針

  • 猫の腎臓病は「進行を遅らせる病気」
  • 完璧な治療を目指すよりも、その子に合った方法を選ぶことが大切
  • 飼い主さんと獣医師が相談しながら、無理のない治療プランを作る

「できることを継続する」ことが最大のポイントです。

🐾 2.食事療法(腎臓用フード)

腎臓病管理の基本であり、最も効果的な治療が食事療法(療法食)です。

  • 低リン食:リンの摂取を抑えることで腎臓への負担を軽減
  • タンパク質の質と量を調整:必要な栄養は確保しつつ、老廃物を減らす
  • オメガ3脂肪酸:腎臓の炎症を抑える作用が期待される

ただし、腎臓用フードは嗜好性が低く、猫が食べないケースもあります。

そんなときは以下の工夫を:

  • ウェットタイプに切り替える
  • 温めて香りを立たせる
  • 少量のトッピングを加える

「どうすれば食べてくれるか」を模索することが第一歩です。

🐾 3.サプリメントによる補助

フードに加えて、サプリメントで補助的なケアをすることもあります。

  • リン吸着剤:食事で摂取するリンを体に吸収させにくくする
  • 抗酸化サプリ:オメガ3、ビタミンB群、抗酸化成分などで腎臓のダメージを軽減
  • アミンアバスト:慢性腎臓病の進行抑制や腎機能の維持が期待できるアミノ酸サプリメント

ただし、サプリメントはあくまで補助的な位置づけです。必ず獣医師と相談しながら選びましょう。

🐾 4.投薬による治療

腎臓病の進行や合併症を抑えるために、状況に応じて薬を使うことがあります。

高血圧のコントロール

アムロジピンなどで血圧を下げ、腎臓や眼・心臓を守ります。

タンパク尿の抑制

セミントラ(テルミサルタン)などのARBを用いて、腎臓への負担を軽減します。

貧血への対応

腎性貧血に対してエリスロポエチン製剤を使用します。

ラプロス(ベラプロストナトリウム)

日本で開発された、猫専用の慢性腎臓病治療薬です。
腎血流の改善や炎症の抑制を通じて腎臓病の進行を遅らせる効果が期待され、臨床現場でも広く使われています。

AIM製剤(開発中)

現在研究中のAIM関連製剤は、腎臓にたまった老廃物を効率的に除去することを目的としています。
「腎臓病の救世主」として期待されており、発売が待ち望まれる新しい治療法です。

🐾 5.皮下点滴(皮下輸液)

腎臓病が進行すると、体内の老廃物を尿で排出する力が弱まり、脱水や尿毒症のリスクが高まります。
その際に行うのが皮下点滴(皮下輸液)です。

  • 自宅で飼い主さんが行えるよう指導を受けるケースも多い
  • 定期的に補液することで、脱水を防ぎ、体調を安定させる
  • 特にステージ3〜4の猫にとって重要な治療のひとつです

皮下点滴は「腎臓病の猫の生活を支える大切な手段」であり、在宅ケアの柱となります。

🐾 6.家庭でのケア

治療の多くは家庭での管理にかかっています。

  • 水分摂取を増やす工夫
    → 自動給水器、ウェットフード、スープを活用
  • 投薬の工夫
    → 錠剤を粉にする、オブラートや投薬補助トリーツを利用
  • 通院が苦手な猫への配慮
    → 無理な通院を避け、在宅でできる範囲のケアを優先
  • 定期的なメディカルチェック
    → 数か月ごとの血液・尿・血圧検査で進行を把握

腎臓病は「病院だけで治す病気」ではなく、飼い主さんの日々のサポートが最重要です。

🐾 7.飼い主さんへのメッセージ

猫の慢性腎臓病の管理において大切なのは、無理をせず、その子に合った治療を選ぶことです。

  • 薬が飲めない猫
  • 通院が大きなストレスになる猫

そうした子たちに、すべての治療を完璧に行う必要はありません。
できる治療を選択し、ベストな管理方法を見つけることが、猫にとっても飼い主さんにとっても一番の幸せにつながります。

腎臓病と共に歩む時間は、工夫次第で大きく伸ばすことができます。
焦らず、猫と一緒に「できることを続ける」ことを大切にしてください。

🐾 まとめ

  • 猫の慢性腎臓病は治すのではなく進行を遅らせる病気
  • 管理の柱は「腎臓用フード・サプリメント・投薬・皮下点滴・家庭でのケア」
  • ラプロスは猫専用の腎臓病治療薬として注目
  • セミントラはタンパク尿抑制に有効
  • AIM製剤は将来の希望となる新薬候補
  • すべての治療を完璧にではなく、その子に合った方法を継続することが大切