これまでの記事では、猫の口内炎や歯周病についてお話してきました。

  • どんな病気なのか
  • どうやって気づくのか
  • どんな治療があるのか

今回はシリーズの最後として、

「もし口内炎や歯周病を放置するとどうなるのか?」

というテーマを取り上げます。

多くの飼い主さんが
「歯の病気は口の中の問題」と思いがちですが、

実は歯科疾患は
全身の健康にも影響する可能性がある病気です。

歯周病は「慢性炎症の病気」

歯周病や口内炎は、

  • 細菌感染
  • 免疫反応
  • 慢性炎症

が複雑に関わる病気です。

炎症が長く続くと、

  • 炎症性サイトカイン
  • 細菌毒素
  • 細菌そのもの

が血流に入り、

全身に影響を与える可能性があると考えられています。

(Pavlica et al., 2008, Journal of Veterinary Dentistry)

歯周病・口内炎と関連が示唆される全身疾患

歯科疾患と関連が指摘されている病気には、次のようなものがあります。

慢性腎臓病(CKD)

猫で最も研究が進んでいるのが
腎臓病との関連です。

大規模データを用いた研究では、

歯周病を持つ猫は
慢性腎臓病を発症するリスクが高いことが報告されています。

また、

歯周病が重度になるほどCKDリスクが高くなる

ことも示されています。

(Trevejo et al., 2018, Journal of the American Veterinary Medical Association)

さらに英国のプライマリケアデータ解析でも、

歯周病のある猫では

CKDのオッズ比 約1.9倍

という関連が報告されています。

心疾患

口腔内には多くの細菌が存在します。

歯周病では歯肉が炎症を起こしているため、

細菌が血流に入りやすくなる(菌血症)

ことがあります。

この菌血症が

  • 心内膜炎
  • 心筋炎

などの心疾患に関与する可能性が
人医療ではよく知られています。

猫では直接データはまだ少ないものの、

疫学研究では

歯周病の猫で心疾患の併存リスクが高い

ことが報告されています。

(UK Primary Care Study, 2023)

糖尿病

人医療では、

歯周病と糖尿病は相互に悪化させる関係

があることが知られています。

慢性歯周炎では

  • IL-6
  • TNF-α

などの炎症性サイトカインが増え、

インスリン抵抗性を悪化させると考えられています。

獣医療では猫単独の強いエビデンスはまだ少ないものの、

糖尿病の動物では口腔感染が悪化しやすいことが知られており、

慢性炎症が血糖コントロールに影響する可能性

が指摘されています。

肝疾患

犬猫の研究では、

歯周病が重度の個体で

  • ALT
  • AST

などの肝酵素が上昇しているケースが多いという報告があります。

これは、

慢性菌血症や炎症による肝臓への負担

が関係している可能性があると考えられています。

呼吸器疾患

口腔内は細菌の温床でもあります。

人医療や犬の研究では、

口腔内の細菌が

  • 気道

へ入り、

肺炎の原因菌になる可能性

が報告されています。

特に

  • 高齢動物
  • 基礎疾患がある個体

では、

口腔内細菌による呼吸器感染のリスク

が理論的に高まると考えられています。

猫の歯科疾患をどう理解すればよいか

ここまでの研究をまとめると、

猫では

比較的強い疫学データがある

疾患は

  • 慢性腎臓病
  • 心疾患

です。

一方で

  • 糖尿病
  • 肝疾患
  • 呼吸器疾患

などについては

人医療や犬の研究から

慢性炎症の影響として説明できる

と考えられています。

つまり、

歯周病や口内炎は

単なる口の病気ではなく
慢性炎症の病気

であり、

その炎症が全身に影響する可能性がある
という理解が重要です。

そしてもう一つ大事なこと

ここまで全身の話をしましたが、

実は一番大きな問題は

痛み

です。

口内炎や重度歯周病の猫は

  • 食べたいのに食べられない
  • 食べると痛い
  • よだれが出る
  • 体重が減る

という状態になります。

治療を行うと、

  • 食欲が戻る
  • 体重が増える
  • 毛づやが良くなる

という変化が見られる猫は少なくありません。

口の健康は、猫の健康そのもの

猫は

痛みをとても我慢する動物

です。

そのため、

気づいたときには

かなり進行していることも珍しくありません。

もし

  • よだれ
  • 口臭
  • 食べ方の変化

などが見られたら、

ぜひ一度ご相談ください。

猫の健康を守るうえで、

口のケアはとても大切な医療の一つです。

参考文献

Trevejo R et al.
Association between periodontal disease and chronic kidney disease in cats.
Journal of the American Veterinary Medical Association, 2018.
Pavlica Z et al.
Periodontal disease and systemic health in dogs and cats.
Journal of Veterinary Dentistry, 2008.
UK Primary Care Veterinary Database Study, 2023.