はじめに
「下痢はしているけど、元気はあるんです」
診察室でも、ブログでも、とてもよく聞く言葉です。
食欲もあって、下痢以外は特に問題がない。
確かに、猫はときどき下痢をします。
- ちょっとした食事の変化
- ストレス
- 一時的なお腹の不調
「動物病院に連れていかなきゃな」と思っている間に、
自然に治ってしまうことも、決して珍しくありません。
でも一方で、
- 「なんとなく続いている」
- 「良くなったり悪くなったりを繰り返す」
- 「ずっと軟便のまま」
そんな下痢の裏に、
きちんと向き合ったほうがいい病気が隠れていることもあります。
この記事では、
- 様子を見ていい下痢
- 受診や検査を考えたい下痢
その境界線を整理してお伝えします。
1.下痢=すぐ危険、ではありません
まず大切な前提から。
猫の下痢すべてが、
すぐに命に関わる緊急事態というわけではありません。
たとえば、
- フードを変えた直後
- 新しいおやつを食べた
- 来客や環境変化があった
こうしたタイミングで起こる下痢は、
腸が一時的にびっくりしているだけ
ということも多くあります¹。
特に、
- 元気がある
- 食欲もある
- 下痢以外の症状がない
こうした場合は、
1〜2日ほど様子を見るという判断も、
医学的に見て間違いではありません¹。
ただし、ここで重要なのは
「下痢があるかどうか」ではなく、
下痢がどう“続いているか”です。
2.「続く下痢」が示すもの
下痢が問題になってくるのは、
- 3日以上続いている
- 良くなったと思ったら、また下痢になる
- ずっと軟便〜泥状便のまま
こうした経過をたどるときです。
猫の腸はとても繊細で、
一度バランスを崩すと、
自然には元に戻りにくいこともあります。
また、慢性的な下痢が続くと、
- 栄養の吸収がうまくいかない
- 体重が少しずつ減る
- 毛ヅヤが悪くなる
といった、
目に見えにくい不調が静かに進行していくこともあります²。
3.下痢の「場所」で考える
下痢は、
どこに問題があるかによって、
見た目や症状が少し変わります。
小腸由来の下痢
- 量が多い
- 水っぽい
- 体重減少を伴うことが多い
消化・吸収のトラブルが背景にあることが多く、
慢性化すると気づきにくいタイプです²。
大腸由来の下痢
- 少量を何回も
- 粘液が混じる
- 血がつくことがある
ストレス性大腸炎や、
腸内環境の乱れで起こることも多いですが、
繰り返す場合は注意が必要です³。
4.よくある原因(頻度の高いものから)
猫の下痢でよくみられる原因には、
- フードや食事内容の変化
- ストレス
- 寄生虫(特に子猫)
- 細菌・原虫感染(多頭飼育では成猫でも起こります)
- 食物不耐性・食物アレルギー
- 慢性腸炎(おおむね2週間以上続く場合)
などがあります¹²。
多くは命に関わるものではありませんが、
「長く続く」「繰り返す」下痢では、
原因を特定することがとても大切になります。
5.好酸球性腸炎・腸疾患という可能性
猫の慢性的な下痢の背景として、
- 好酸球性腸炎
- リンパ球形質細胞性腸炎
といった、
免疫が関与する腸疾患が見つかることもあります⁴。
これらは、
- 下痢が続く
- 血便や粘液便を伴うことがある
- 一時的に良くなっても再発する
といった経過をたどることが多く、
症状だけでの判断は困難です。
確定診断には、
- 腹部超音波検査
- 消化管内視鏡検査による組織生検
が必要になります。
ごく稀ではありますが、
消化管型リンパ腫などの病気が隠れていることもあるため、
できる限り確定診断をつけてから治療を選ぶことが、
結果的に猫の負担を減らします⁴⁵。
6.すぐ受診を考えたいサイン
次のような場合は、
下痢の程度に関わらず、早めの受診をおすすめします。
- 元気がない
- 食欲が落ちている
- 嘔吐を伴う
- 血便が混じる
- 体重が減ってきている
- 子猫・高齢猫
- 下痢が1週間以上続いている
「もう少し様子を見よう」が長引くほど、
回復までに時間がかかることもあります。
7.家でできること・やってはいけないこと
家でできること
- 便の状態を写真に残す
- 回数・期間をメモする
- 食欲・元気の変化を観察する
これだけでも、
診察時にとても大きな情報になります。
やってはいけないこと
- 人の下痢止めを使う
- 自己判断で絶食させる
(猫は絶食に弱く、腸粘膜の回復を遅らせる可能性があります²) - フードを頻繁に切り替える
「何かしてあげたい」気持ちが、
かえって腸を混乱させてしまうこともあります。
まとめ:下痢は「体調のサイン」
猫の下痢は、
- すぐに治るもの
- 様子を見すぎないほうがいいもの
その両方があります。
大切なのは、
便そのものより、
その猫がどう過ごしているかを見ること。
もし、
これって大丈夫?
受診のタイミングがわからない
そんなときは、
ひとりで抱え込まず、
かかりつけの動物病院に相談してください。
早めに立ち止まることが、
結果的に、いちばんの近道になることも多いのです。
📚 参考文献(Evidence)
Washabau RJ, Day MJ. Canine and Feline Gastroenterology. Elsevier, 2013.
Jergens AE. Clinical assessment of chronic gastrointestinal disease in cats. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2011.
Hall EJ, Simpson JW, Williams DA. BSAVA Manual of Canine and Feline Gastroenterology. 2nd ed. 2005.
Norsworthy GD et al. Feline inflammatory bowel disease and alimentary lymphoma. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2010.
Kiupel M et al. Classification of feline lymphoma. Vet Pathol. 2011.





