はじめに
FIPと診断されたとき、
多くの飼い主さんが次に考えるのは、こんなことです。
家の中は全部消毒しなきゃいけない?
トイレや床、ケージは危険?
同居猫にうつらないよう、徹底的に消毒すべき?
ネットで調べれば調べるほど、
「消毒」「隔離」「感染源」という言葉が並び、
不安がどんどん大きくなってしまうことも少なくありません。
でも、FIPの消毒については、
正しく知ることで、やらなくていいことがたくさんある
というのが結論です。
この記事では、
- FIPと消毒の関係
- 本当に必要な消毒
- 過剰にやらなくていいこと
を、整理してお伝えします。
1.そもそも「FIPウイルス」は環境にいるの?
まず大切な前提です。
FIPウイルスそのものを、環境中で消毒する必要はほぼありません。
なぜなら、
FIPを起こす変異ウイルスは
猫の体内で生じ
体外に長期間排出されることはほとんどない
と考えられているからです¹²。
つまり、
家の中に「FIPウイルスが蔓延している」=床や家具がFIPの感染源になる
という考え方は、基本的に正しくありません。
2.消毒の対象になるのは「猫腸コロナウイルス」
消毒を考えるときに対象になるのは、
FIPウイルスではなく、猫腸コロナウイルス(FCoV) です。
FCoVは、
- 主に糞便中に排出される
- トイレを介して感染が広がる
- 環境中で数日〜数週間生存する可能性がある
という特徴があります³⁴。
つまり、消毒の主役は
「トイレまわり」 です。
3.本当にやるべき消毒ポイント
① トイレの管理(最重要)
FCoV対策で最も大切なのは、トイレです。
✔ 便はこまめに処理
✔ 可能であれば猫の頭数+1個のトイレ
✔ 定期的にトイレ容器を洗浄
洗浄時は、
中性洗剤で汚れを落とす
その後、次亜塩素酸系消毒薬(希釈した漂白剤)や消毒用アルコールで消毒
で十分です³。
ただし、ここで大切な点があります。
これらを行っても、猫腸コロナウイルスの感染拡大を完全に防ぐことはできません。
現実的には、
定期的にウイルス量を「リセットする」ための管理であり、
感染をゼロにする対策ではない という位置づけになります。
② 食器・給水器
毎日洗剤で洗う
共有は避ける
これだけで十分です。
特別な消毒薬を継続使用する必要はありません。
③ ケージ・キャリー
便や汚れが付着した場合のみ洗浄
通常は洗剤+十分な乾燥で問題なし
頻繁な強い消毒は不要です。
4.やらなくていい消毒・注意点
ここはとても大切なので、はっきり書きます。
❌ 家中の床・壁・家具の毎日消毒
❌ 空間噴霧による消毒
❌ 猫の体を消毒薬で拭く
❌ 過度な隔離・長期間のケージ生活
これらは、
- FIPの予防効果が乏しい
- 猫のストレスを増やす
- 飼い主さんの精神的・身体的負担が大きい
という デメリットのほうが大きい 対応です。
FIPの発症には、
ウイルス量だけでなく 「ストレス」や「免疫状態」 が深く関わることが知られています¹⁵。
消毒のしすぎが、
かえって逆効果になることもあるのです。
5.同居猫がいる場合の考え方
FIPの猫がいても、
- 同居猫を完全隔離する
- 接触を一切禁止する
必要は、基本的にありません。
それよりも大切なのは、
- 清潔なトイレ管理
- 過密な飼育環境を避ける
- 生活リズムを安定させる
- 安心して休める居場所を確保する
といった 環境とストレスの管理 です。
「消毒より環境」
これは、FIPを考える上でとても大切な視点です。
まとめ:消毒は「シンプルでいい」
FIPの消毒について、覚えておいてほしいのはこの3点です。
FIPは他の猫へ直接感染する病気ではないため、FIPウイルスそのものを消毒する必要はない
重点は トイレまわりの衛生管理
過剰な消毒や隔離は、かえって逆効果
正しい知識は、
猫を守るだけでなく、
飼い主さん自身の心も守ってくれます。
もし、
どこまで消毒すればいいかわからない
同居猫との暮らしが不安
やり方がこれで合っているか心配
そんなときは、
ひとりで悩まず、
かかりつけの動物病院に相談してください。
「ちゃんとやろう」と思う気持ちこそが、
すでに十分、猫の力になっています。
📚 参考文献(Evidence)
1.Pedersen NC.
An overview of feline enteric coronavirus and infectious peritonitis.
Vet Microbiol. 2009.2.Pedersen NC et al.
Pathogenesis of feline infectious peritonitis.
J Feline Med Surg. 2014.3.Addie DD et al.
Feline coronavirus infection.
ABCD guidelines, J Feline Med Surg. 2009.4.Addie DD, Jarrett O.
Feline coronavirus infections.
In: Greene CE (ed). Infectious Diseases of the Dog and Cat.5.Brown MA et al.
Genetic resistance to feline infectious peritonitis.
J Vet Intern Med. 2009.





