はじめに
「うちの子、最近ちょっと食べ方が変なんです」
歯肉炎や口内炎の猫を診察していると、
多くの飼い主さんが、こう言います。
食欲はある。
でも、どこか違う。
猫の歯肉口内炎は、
“急にぐったりする病気”ではありません。
じわじわ進み、
じわじわ痛みが強くなり、
そしてある日、「あれ?」と気づきます。
この記事では、
猫の歯肉炎・尾側口内炎の初期サインを整理します。
1.食欲はあるのに、食べ方が変わる
歯肉口内炎の初期に多いのが、こんな変化です。
ごはんを口に入れて、ポロッと落とす
数粒食べてやめてしまう
食べるスピードが遅くなる
硬いフードを避ける
口をくちゃくちゃ動かす
重要なのは、
「食べない」ではなく、「食べづらい」
という段階があること。
猫は痛みを隠す動物です。
慢性口内炎では、痛みがあっても空腹に負けて無理をして食べる、
という行動がよく見られます。
だから「完食=問題なし」ではありません。
2.よだれ・口臭が強くなる
歯肉炎や尾側口内炎が進行すると、
口臭が強くなる
透明〜粘ついたよだれが増える
口元が黒っぽく汚れやすくなる
といった変化が出てきます。
特に尾側口内炎では、
喉の奥(口腔後方)に炎症が出ます。
外から見えにくいのに、
猫にとっては非常に強い痛みを伴う部位です。
「最近、息がちょっと匂うかも?」
それが最初のサインのこともあります。
3.触らせなくなる
顔まわりを触ると嫌がる
あくびをしなくなる
口を開けるのを嫌がる
これも重要なサインです。
「気難しくなった」
「年を取って機嫌が悪い」
そう思っていたら、
実は慢性的な痛みだったということは珍しくありません。
猫は
「痛い」とは言わず、
「触らせない」で伝えます。
4.食べているのに、痩せる
少し進んだサインです。
食欲はある
でも体重が少しずつ減っている
慢性的な炎症が続くと、
十分に咀嚼できない
摂取カロリーが不足する
炎症による代謝亢進
といった理由で、
じわじわ体重が落ちることがあります。
実際、
必要量の半分以下しか摂取できていないケースもあります。
「食べているのに痩せる」は、
必ず評価すべき重要なサインです。
5.尾側口内炎は“見えにくい”
尾側口内炎は、
上下奥歯の後方
喉に近い部位
に炎症が出るタイプです。
口を開けても、
素人目にはほとんど分かりません。
でも猫にとっては、
非常に強い痛みを伴います。
飲み込みにくそう
常に喉に違和感がある様子
クチャクチャと口を動かす
ドライよりウェットを好む
こうした変化がヒントになります。
6.実は、決して珍しい病気ではありません
慢性歯肉口内炎(FCGS)の有病率は、
一般猫集団では約0.7〜1.3%と報告されています(Sánchez-Vallejo 2018)。
一方、歯科診療を受ける猫では
より高頻度に認められるとされています。
また、慢性口内炎症例の多くで
尾側口内炎を伴うと報告されています(Jennings 2015)。
7.当院データから見える現実
2025年、たんぽぽキャットクリニックでは
歯肉口内炎関連疾患に対し 42例の抜歯処置 を行いました。
その内訳は、
尾側口内炎を伴っていた猫:43.9%
吸収病巣(FORL)を伴っていた猫:82.93%
※これは一般猫の発生率ではなく、
あくまで「抜歯が必要だった症例群」のデータです。
特に注目すべきは、
8割以上の猫に吸収病巣が認められたこと。
吸収病巣は外からはほとんど分かりません。
しかし、非常に強い痛みを伴うことが多い病変です。
つまり、
「なんとなく食べ方が変」
その背景に、
見えない痛みが隠れていることは珍しくないのです。
まとめ
猫の歯肉口内炎は、
突然悪化する病気ではなく
少しずつ進行する慢性疾患です
そして多くの場合、
最初に気づけるのは飼い主さんです。
「気のせいかもしれない」
その違和感は、
だいたい気のせいではありません。
早く気づけるほど、
治療の選択肢は広がります。
次回は、
歯肉炎・口内炎の治療にはどんな選択肢があるのか
― 抜歯以外の治療も含めて整理します。





